| 雨のデスカルガ（カンクンにて） |
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キューバ、ハバナを発ったのは１２月２３日の早朝、嵐の中だった。 マレコン（海岸通り）に近い家からは、海がうなりをたてて堤防に 身をぶつけ、しぶきをたてているのが見える。朝といってもまだ明 るくもならない暗闇の中、吹き荒れる風と雨と踊り狂ってくだけ散 る海を見ながら、なかなか来ないタクシーを待っていた。（前日に ティナがタクシー会社に電話しておいてくれたというのに、、、。 ティナはまだ夜明け前だというのに、起きだして私を見送ってくれ た。） カンクンのホテルに着くなり、ハバナでの連日連夜の睡眠不足のフ ィードバックなのか、丸一日眠りこけてしまった。どうせ、トラン ジットの為の滞在。観光に来たわけじゃない。 夜になって、夕食を取るために、ホテルから三軒先のレストランに でかけた。ボリュームのあるメキシカンフードとともに、ハバナで 起こったことや出会った人、そしてその意味などを噛みしめていた。 すると、ハバナの嵐と同じ雲がここにもやってきたのだろうか。 みるみるうちに、大粒の雨を降らせ始めた。 屋根のないところにある木製のテーブルを、雨はすごい勢いで連打 する。タタタタ、、ドドッ、、、タタ、、タタタタ、、、ダダダ。 その音は、まるであの日のデスカルガのよう。 あれは、怒濤のようなリズムの競演。すごいデスカルガだった。 ジョバンニが、ベトゥンが、マンディが、パピオスコが、、、繰り 出すリズムの渦。それは、嵐のような勢いで、流れ落ちるのだ。 音、音、音、リズムの洪水。 ジャズ・フェステバルの最終日、私は、ヘスス・バルデス・Jr （チューチョ・バルデスの長男、ピアニスト）のバンドで演奏を していた。そのコンサートはフェステバル最終日の催しの一番最後のものだったので、他の会場で演奏していたミュージシャ ンたちも、みな三々五々ここに集まっって来て、演奏に加わり デイブ・バレンティン、ジョバンニ・イダルゴなど私のアイド ルたち、、、。そして素晴らしい数々のパーカショニストたち。 生命のリズム、おしよせる波、音とリズムのあふれる大洪水。 ジョバンニの演奏（ソロ）をすぐ横で聴いていたときには、ほ んとうにほんとうにびっくりした。 もう、なんというか、、。人間を越える音楽。スゴイ！としか、 いいようがないような。 演奏が終わったあと、友人のティンバル奏者オルランドが 「これ、もらったよ」と言って見せてくれた、ジョバンニの使 ったスティックは、ほとんどささくれてすり切れてしまってい た。たった一回の演奏で！！でも、オルランドはこれをていね いに直してまた使うんだって。キューバ人らしい。 カンクンのレストランにてテーブルに叩きつける怒濤のような 雨の音を聴きながら、しばらくハバナでの追想にふけったあと ホテルに戻ろうとする。 ところが、なんと雨はあっという間に道を川に変えていたのだ。 店からちょっと道へ身をのりだすと、車が通って、ざぶん、と波 を起こし、私はずぶぬれ。 子供たちは、はしゃぎ、店の人たちもこの異常事態を陽気に笑う。 結局、この水は引きそうもないので、ズボンをまくり、裸足にな って、３軒先のホテルまで帰った。 結局、朝まで雷と雨は止まなかった。 自然は、音楽に似ているんだな。 逆か。音楽が自然に似ているのかな。 デスカルガ。音楽と人と歓喜の場所。 私は、そのとき、人々の輪の真ん中に立っていた。 音楽が人を一つにする、そういう人の輪の中に。 そして、いつもいつも、そうだったような気がする。 それは、遠い昔、むかしの記憶のように。 注）「デスカルガ」‥‥キューバ風ジャムセッションのこと |